法人化で後悔する「よくある理由」とは?失敗しないための対策を行政書士が解説
「法人化すれば節税できる」「信用が上がる」といったメリットばかり聞いて法人化したものの、 実際には想定外の負担で後悔する方が少なくありません。 この記事では、実際に法人化して後悔した事例と、失敗しないための事前対策を詳しく解説します。
後悔事例①:想定以上の維持コスト
実際の声
「法人化すれば節税できると聞いて会社を作りましたが、 税理士費用が月3万円、法人住民税が年7万円、社会保険料も予想以上...。 個人事業主の時より手取りが減りました。」(30代・ITフリーランス)
法人の年間維持コスト(目安)
| 項目 | 年間費用 |
|---|---|
| 税理士顧問料 | 30〜50万円 |
| 法人住民税(均等割) | 7万円 |
| 社会保険料の増加分 | 10〜30万円 |
| その他(登記変更等) | 5〜10万円 |
| 合計 | 52〜97万円 |
対策:法人化前に、最低でも年間50万円以上の固定費増加を覚悟する必要があります。 この固定費を上回る節税効果や売上増加が見込めるか、慎重にシミュレーションしましょう。
後悔事例②:事務作業の負担増
実際の声
「毎月の給与計算、社会保険の手続き、法人税申告...。 本業に集中したいのに、事務作業に時間を取られすぎています。 個人事業主の時は確定申告だけで済んだのに。」(40代・コンサルタント)
法人化で増える事務作業
- ●毎月の給与計算
役員報酬の支払い、源泉徴収、住民税の納付
- ●社会保険の手続き
加入手続き、月次報酬変更、年度更新、算定基礎届
- ●法人税の申告
決算書作成、別表作成、地方税申告(個人より複雑)
- ●議事録の作成
株主総会、取締役会の議事録(法的義務)
対策:クラウド会計ソフト、給与計算ソフトの活用、税理士への丸投げなど、 IT化・外注化で事務負担を軽減する前提で法人化しましょう。
後悔事例③:社会保険料の重圧
実際の声
「役員報酬を月50万円に設定したら、社会保険料が会社負担と個人負担で月約15万円...。 年間180万円も社会保険料に消えていきます。 国保の時より負担が増えました。」(50代・建設業)
社会保険料の負担(月額報酬50万円の場合)
- • 厚生年金:会社負担 約4.6万円 + 本人負担 約4.6万円
- • 健康保険:会社負担 約2.5万円 + 本人負担 約2.5万円
- • 雇用保険・労災保険:約0.5万円
- 合計:月約15万円(年間180万円)
対策:役員報酬の設定を慎重に行い、社会保険料の負担を考慮した報酬額を設定しましょう。 ただし、将来の年金額も増えるため、一概にデメリットとは言えません。
後悔事例④:赤字でも税金が発生
実際の声
「コロナで売上が激減し、赤字になったのに法人住民税7万円の請求が...。 個人事業主なら赤字の年は税金ゼロだったのに。」(30代・飲食店経営)
法人には「法人住民税の均等割」という最低限の税金があり、赤字でも年間7万円(資本金1,000万円以下の場合)が必ずかかります。
対策:売上が不安定な事業の場合、法人化のタイミングを慎重に見極めましょう。 最低でも年間7万円の固定税金を払える安定性が必要です。
後悔事例⑤:資金繰りの悪化
実際の声
「役員報酬を高めに設定しすぎて、会社の資金がすぐに底をつきました。 個人事業主の時は自由に資金を使えたのに、 法人の資金は勝手に使えないことを後から知りました。」(20代・EC事業)
法人化で資金繰りが悪化する理由
- 会社の資金と個人の資金が分離される
個人事業主は事業資金を自由に使えますが、法人の資金を個人的に使うと「役員貸付金」として税務上不利になります。
- 役員報酬は年度途中で変更できない
売上が減っても、すぐに役員報酬を減らせません。決められた報酬を払い続ける必要があります。
- 社会保険料・税金の支払いが毎月発生
個人事業主は確定申告時にまとめて払えますが、法人は毎月の源泉徴収・社会保険料の支払いが必須です。
対策:法人化時には、最低6ヶ月分の運転資金(固定費)を手元に残しておきましょう。 役員報酬も保守的に設定し、資金繰りに余裕を持たせることが重要です。
後悔しないための5つの事前チェック
1年間維持コストを正確に見積もる
税理士費用、法人住民税、社会保険料の増加分など、年間の固定費を事前に計算し、 その金額を払っても事業が成立するか確認しましょう。
2税理士に事前相談する
法人化前に税理士に相談し、実際の節税効果をシミュレーションしてもらいましょう。 「法人化すれば税金が減る」は必ずしも正しくありません。
3事務作業の負担を覚悟する
本業に集中したい場合は、経理・給与計算を外注する前提で予算を確保しましょう。 自分で全部やろうとすると、本業が疎かになります。
4売上の安定性を確認する
法人化は固定費が増えるため、売上が不安定な段階では危険です。 最低でも1年以上、安定した売上実績を作ってから法人化しましょう。
5運転資金を確保する
法人化後、最低6ヶ月分の固定費(税理士費用・社会保険料・法人住民税など)を 会社の口座に残しておきましょう。
法人化すべきタイミングの見極め方
以下の条件を満たす場合、法人化を検討する価値があります:
✅ 法人化を検討すべき条件
- ✓年間所得(利益)が800万円以上ある
- ✓売上が1年以上安定している
- ✓扶養する家族がいる(社会保険の扶養メリット)
- ✓取引先から法人化を求められている
- ✓年間50万円以上の固定費増加を許容できる
- ✓経理・事務作業を外注できる予算がある
❌ 法人化すべきでない状況
- ×独立して1年未満で売上が不安定
- ×年間所得が500万円未満
- ×手元資金が100万円未満
- ×「なんとなく法人の方がかっこいい」という理由だけ
まとめ
法人化には確かにメリットがありますが、デメリットや負担も決して小さくありません。 「節税できる」という甘い言葉だけで法人化すると、高確率で後悔します。
この記事で紹介した後悔事例を参考に、ご自身の事業規模や資金状況を冷静に分析し、 本当に法人化すべきタイミングなのかを慎重に判断してください。 迷った場合は、税理士や行政書士に相談することを強くお勧めします。

執筆:竹中行政書士
中小企業支援・会社設立の専門家
法人化の相談を受ける中で、「もっと早く相談してくれれば...」と思うケースが多々あります。 法人化は取り返しがつかない決断ではありませんが、タイミングを間違えると大きな負担になります。 この記事が、皆さまの適切な判断の一助となれば幸いです。