個人事業主の国民健康保険料は高すぎる!?保険料を安くする方法を行政書士が解説
個人事業主になって初めて国民健康保険の請求書を見て、「高すぎる!」と驚いた経験はありませんか? 会社員時代と比べて、なぜこんなに高いのか。そして、合法的に保険料を安くする方法はあるのか。 中小企業支援に携わる行政書士が、保険料の仕組みから具体的な対策まで、丁寧に解説します。
なぜ個人事業主の国保は高いのか?
個人事業主の国民健康保険料が高く感じる理由は、主に3つあります:
理由1:全額自己負担
会社員の場合、健康保険料は会社と本人が半分ずつ負担します。 しかし個人事業主は全額自己負担のため、実質的に2倍の負担になります。
理由2:所得に応じて青天井
国民健康保険料は所得が増えるほど高くなり、上限額(年間約100万円)まで増え続けます。 会社員の健康保険には報酬月額の上限がありますが、国保は所得に比例して上がり続けます。
理由3:扶養家族の概念がない
会社員の健康保険では、扶養家族の保険料は無料です。 しかし国民健康保険には扶養の概念がなく、家族一人ひとりに保険料がかかります。
💡 具体例で見る負担の違い
年収600万円の場合(東京都世田谷区):
- 会社員(健康保険):約30万円/年(本人負担分のみ)
- 個人事業主(国民健康保険):約70万円/年
- 差額:約40万円/年
国民健康保険料の計算方法
国民健康保険料は、市区町村ごとに異なりますが、基本的な計算式は以下の通りです:
保険料の構成
① 医療分
所得割 + 均等割 + 平等割
② 後期高齢者支援金分
所得割 + 均等割 + 平等割
③ 介護分(40〜64歳のみ)
所得割 + 均等割 + 平等割
各項目の意味
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得割 | 前年の所得に応じて計算(最も影響が大きい) |
| 均等割 | 加入者1人あたりの定額(家族が多いほど高い) |
| 平等割 | 1世帯あたりの定額(自治体によってはなし) |
重要:保険料は「前年の所得」を基に計算されます。 つまり、今年独立した場合でも、前年にサラリーマンとして高収入だった場合は、 高額な保険料が請求されます。
会社員との比較シミュレーション
同じ年収でも、会社員と個人事業主でこれだけ保険料が違います:
| 年収 | 会社員 (健康保険) | 個人事業主 (国保) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 約20万円 | 約45万円 | +25万円 |
| 600万円 | 約30万円 | 約70万円 | +40万円 |
| 800万円 | 約40万円 | 約90万円 | +50万円 |
| 1000万円 | 約50万円 | 約102万円 | +52万円 |
※ 東京都世田谷区、40歳以上、単身の場合の概算。実際の金額は自治体や家族構成によって異なります。
合法的に保険料を安くする5つの方法
1経費を正しく計上する
国保の保険料は「所得」で計算されます。所得 = 収入 - 経費なので、 正しく経費を計上すれば、所得が下がり、保険料も下がります。
計上できる主な経費:
- 事業用の家賃・光熱費(按分)
- 通信費・インターネット代
- 交通費・ガソリン代
- 備品・消耗品費
- 書籍代・セミナー参加費
2青色申告特別控除を活用する
青色申告をすれば、最大65万円の特別控除が受けられます。 これにより、所得が65万円減るため、保険料も大幅に下がります。
効果の例:年収600万円、経費200万円の場合
所得400万円 → 青色控除後335万円
→ 保険料が年間約10万円減
3iDeCoや小規模企業共済に加入する
iDeCo(月額最大68,000円)や小規模企業共済(月額最大70,000円)の掛金は、 全額が所得控除の対象になります。
効果の例:月5万円をiDeCoに拠出した場合
年間60万円の所得控除
→ 保険料が年間約8万円減
4自治体の減免制度を確認する
所得が急減した場合や、災害・失業などの特別な事情がある場合、 保険料の減免や猶予が受けられることがあります。
※ 市区町村の国保窓口に相談してみましょう
5所得の低い年度に独立する
国保の保険料は「前年の所得」で計算されます。 サラリーマン時代の高収入が影響しないよう、独立のタイミングを調整するのも一つの方法です。
例:年末退職 → 翌年1月独立すると、独立初年度の保険料は前年のサラリーマン時代の収入で計算されます。 年初退職 → 同年中に独立すると、翌年の保険料は独立後の所得で計算されます。
法人化で社会保険に切り替える選択肢
年収が一定以上(目安:800万円以上)になると、 法人化して社会保険(厚生年金・健康保険)に加入することで、 トータルの負担を減らせる可能性があります。
法人化のメリット
✅ 保険料の上限がある
社会保険料には報酬月額の上限(標準報酬月額)があり、 いくら稼いでも保険料は一定額以上増えません。
✅ 会社と折半できる
法人の代表でも、社会保険料は会社と本人で半分ずつ負担します。 (ただし、一人会社の場合は実質的に全額自己負担)
✅ 年金額が増える
厚生年金に加入すると、将来もらえる年金額が国民年金のみより大幅に増えます。
✅ 扶養に入れられる
配偶者や子どもを扶養に入れれば、家族分の保険料は不要になります。
法人化のデメリット
設立・維持コストがかかる
会社設立に約25万円、維持費(税理士報酬・法人住民税など)に年間約30万円〜
事務負担が増える
社会保険の手続き、給与計算、法人税申告など、個人事業より複雑になります
社会保険が強制加入
法人の場合、利益が少なくても社会保険への加入が義務付けられます
💡 法人化を検討すべき目安
- ✅ 年収(所得)が800万円以上
- ✅ 扶養する家族がいる
- ✅ 取引先から法人化を求められている
- ✅ 事業が安定していて、今後も継続する予定
やってはいけない「違法な節約方法」
インターネット上には、違法または脱法的な「保険料節約方法」が紹介されていることがありますが、 絶対にやってはいけません。
❌ 所得を過少申告する
税務調査で発覚すると、追徴課税だけでなく、 刑事罰(脱税)の対象になる可能性があります。
❌ 架空の経費を計上する
領収書の偽造や、プライベートの支出を事業経費として計上することは犯罪です。
❌ 国保を未加入のままにする
国民健康保険は強制加入です。未加入の場合、 遡って保険料を請求され、さらに延滞金も発生します。
❌ 住民票を移して保険料の安い自治体に転居したことにする
実際に居住していない場所に住民票を移すことは、 公正証書原本不実記載罪に該当する可能性があります。
保険料を節約したい気持ちは理解できますが、必ず合法的な方法を選びましょう。 不安な場合は、税理士や行政書士に相談することをお勧めします。
まとめ:自分に合った対策を選ぶ
💡 状況別のおすすめ対策
年収400万円未満の方
→ 経費の適正計上、青色申告特別控除、iDeCoの活用
年収400〜800万円の方
→ 上記に加えて、小規模企業共済の活用
年収800万円以上の方
→ 法人化を検討(社会保険への切り替え)
扶養家族がいる方
→ 法人化すれば家族を扶養に入れられる(保険料削減効果大)
国民健康保険料の高さに悩む個人事業主の方は多くいらっしゃいます。 しかし、正しい知識と適切な対策を取れば、合法的に負担を軽減することは可能です。
ご自身の状況に合った方法を選び、無理のない範囲で実践してみてください。 不明な点や、法人化を検討される場合は、税理士や行政書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

執筆:竹中行政書士
中小企業支援・会社設立の専門家
多くの個人事業主の方から「国保が高すぎる」というご相談をいただいてきました。 保険料の負担は確かに重いですが、合法的な対策は必ずあります。 この記事が、皆さまの負担軽減の一助となれば幸いです。
免責事項:本記事の情報は2025年1月時点のものです。 保険料の計算方法や制度は変更される可能性があります。 具体的な手続きや金額については、お住まいの市区町村や専門家にご確認ください。